環境と多様性の交差点—『チャーリー』と『あおいらくだ』が教える大切なこと

7月某日。初めて入った新宿二丁目の「足湯cafe&bar どん浴」は多種多様な色を持つ人達が賑わうアットホームな空間だった。

その日、私はひとときの舞台『チャーリー』のテーマ曲「あおいらくだ」の作者、五十鈴ココさんと、そのオリジナルとなる絵本「あおいらくだ」の著者である茂田まみこさん、長村さと子さんと、「あおいらくだ」という物語についてお話を聞かせてもらうことになった。

ひとときの舞台『チャーリー』は、環境破壊と戦争が続く世界で、人と自然が再び共生を目指す希望の未来を描く。その中で「普通」と違う、誰かを受け入れ、新しい自分と出会う。同様に、絵本『あおいらくだ』も、異なる個性を尊重し、違いを超えて共に生きることの重要性を子どもたちに伝えている。この二つの作品が交差する地点には、私たちがこれからの未来をどう創り上げていくべきかというメッセージが隠されている。今回のインタビューでは、『チャーリー』と『あおいらくだ』が教えてくれる環境と多様性の交差点について探っていく。

坂口:今回のインタビュアーであり9月に上演するひとときの舞台『チャーリー』主催者。テーマは環境保護と子供の自立支援。ゲストのcocoさんには主題歌「あおいらくだ」を担当してもらう他、本番終演後のミニライブが決定している。今回、主題歌の原作とも言える絵本作品「あおいらくだ」を作成、出版されたお二人との対談が成立した。

長村さと子さん 一般社団法人「こどまっぷ」共同代表。 新宿2丁目にて「足湯cafe&barどん浴」女性限定バー「どろぶね」「レインボーブリトー」など経営している。ご自身も当事者としてLGBTQの人たちが安心してこられるような居場所づくりを目指している。cocoさんとは小学生からの同級生。

茂田まみこさん。長村さんのパートナーであり同じく一般社団法人「こどまっぷ」メンバー。あおいらくだの絵本の原案などを担当し長村さんと共に出版にいたっている。

五十鈴ココ(cocoさん) シンガーソングライター。2003年宝塚歌劇団入団、2009年まで様々な作品に出演。 退団後、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」セーラーギャラクシア 役、 博品館劇場舞台「三人姉妹」アンドレイ役など 多数の舞台・ミュージカルに出演。 独自の世界観で性、愛、死、宇宙などをテーマにした様々なジャンルのオリジナルソングを制作、楽曲提供も行う。現在都内を中心に精力的にライブ活動を行っている。 

こどまっぷ:「子どもが欲しい」また「子どもを育てている」LGBTQの方々や、それを応援するアライな仲間たちを繋げる非営利型の一般社団法人

ーーーー以下インタビュー ーーーーー

あおいらくだの原点

坂口:あおいらくだの原案と絵はどちらもまみこさんが制作されたものですか?

茂田さん:原案を書いたのは私で、絵を描いたのは当時私が好きだったイラストレーターの方で、その方に頼んで今回の絵本が出来上がりました。

坂口:すごく素敵なタッチと物語でした。この物語を制作された背景を教えてください

茂田さん:当時「こどまっぷ」として活動しているときに知り合った団体が地域の子ども達に向けて一緒に紙芝居を作ろうというワークショップに参加しました。子供達みんながそれぞれ好きな色画用紙を取っていったときに青が残った。元々好きだった「ラクダ」と残った「青」を掛け合わせて「ラクダが青くったっていいじゃない」というところからこのキャラクターが出来上がりました。LGBTQの活動をしていて感じるのは「普通」や「普通ではないこと」に囚われてしまうことが人にはあると思うのですが、あおいらくだがいても良いよね、色の違いがあるだけでなく、それぞれの違いを知ることでそれって素敵なところがあるよね、捉われないっていいよねということを絵本の中で旅をしてもらえたらというところから原案が浮かびました。

坂口:あおいらくだを書かれたきっかけは長村さんのご友人が出産時に亡くなった事で、生まれた子が孤立したりひとりぼっちにならないようにというところから書かれたと聞いています。

長村さん:そもそも「こどまっぷ」を法人化するにあたっては根本にその友人だったメンバーが長い妊活の末に出産し、その時に亡くなってしまったとことで、法的に守られていない私たちが、いかに準備が必要なのかを思い知ったところがあります。(茂田さん)まみこも同じような思いでやってきたが、まみこがふわふわと作品を描く中で、私がこの作品から彼女の子供のことを思い出し、ちゃんとその子に届くように完成させようという所からプロジェクトが進んでいきました。

茂田さん:とくに「あとがき」は、その子への励みになればという想いを込めました。この先産んだ親がいないということや、人と違うということが違いとして浮き彫りになる可能性がある。だけど、その違いはあおいらくだみたいに素敵なものは素敵だし、沢山そうゆうものに出会って豊かに旅ができるんだという励みにこの話がなればというメッセージを込めました。

坂口:cocoさんがあおいらくだの曲をつくられて歌を最初に聞いたときにどう思われましたか?

長村さん:私は幼馴染みながらいい曲作るなあって思いました。ストーリーに合っているというか、絵本の世界観からインスピレーションを受けて生まれていて、総合的に絵本に繋がっているところが美しいなと思いました。

茂田さん:私は自分の中のあおいらくだを絵本にしましたが、この歌を聞いたときにそれぞれの「あおいらくだ」があるんだなって感じました。目に見えるものだけじゃなくて、それぞれが心の中にある孤独や人と違う部分、それをどう表現するのかっていう違いを持っていて、また歌を聴いた人があおいらくだの旅のようにそうゆう世界も素敵だよねって言い合えたりしたら、素敵だなと思いました。

坂口:(cocoさんに)たしかに直接的な絵本のあおいらくだのストーリーだけを歌にしたわけではなく、cocoさんの中で解釈されてメッセージにされていた気がしました。ご自分の経験されたことも含めて作品にされたのかなと思いましたがどうですか?

cocoさん:この絵本を読んだ時、人生は違いを楽しむ旅だというメッセージが響いて。絵本のきっかけになったカップルのお話も含めて、この歌を書くときのフォーカスはその方達へ、またそのお子さんへ向けて想いを込めて書きました。このことは歌う上でも私の中でとても大切にしているところのひとつです。

多様性を超えて – 違いを受け入れる社会の可能性

坂口:あおいらくだから派生して、社会の話をしていきたいです。子供達が自分たちと違う子を受け入れる社会は実現できると思いますか?例えば、いじめの原因は違うことを劣ってるとみなして弱いものいじめは始まってくると思います。それは違いだし、個性だしという事にして認めて受け入れられる社会は実現可能だと思いますか?

茂田さん:いじめに関してはどちらかというと自分と違うことが怖くて、排除する方が安心するからそれがいじめにつながるというイメージがあります。違いはただの違いであって、優劣を定めるものではないので、違いを「劣っている」とみなしているというよりは「劣ったものにする」ためにいじめているのではないかと。そしていじめ自体は社会的背景がとても大きいと思います。いじめのない社会が来ればいいと思っているがとても難しいと思う。それは子どもの社会には大人が影響しているからです。

長村さん:前提として、みんな違うから同じになることはない。日本は特に大きいものに巻かれる風潮があるが、いじめがあるような社会は良くないんだというふうに少しずつ変わってきている。人権が大切ということが教育として子どもには落とし込まれてきているから、やがてはその考え方が100%ではないけどマジョリティになって大人はそれについていくことになるのかなあと、希望を持ちたいなと思います。

坂口:マジョリティといえば確かに今マジョリティとマイノリティという観念自体があやふやになってきてますよね。その、マジョリティがマイノリティになった時にその人たちを差別することは正義ではないですよね。

長村さん:そうです。ある場所ではマジョリティはマイノリティになるし、それで社会が分断することに繋がるというわけではなく既に一緒に世界に生きているということが、どんどん明らかになっていけばいいと思います。

cocoさん:私も同じ気持ちです。
セクシャリティだけに限らず国籍や年齢などが異なる全ての人が分け隔てなく平等にという世界を作る事は中々難しい事ではあると思います。エンターテイメントの中で私なりの思いをアウトプットして、悩んでいる方の背中を少しでも押させて頂くキッカケになれたらと。セクシャルマイノリティの人間は、必ずしも悲劇的に、ドラマティックに描かれる存在ではなくて普通に日常を生きているんだよと、そんな作品も芝居や音楽でこれからも生み出していきたいなと思っています。

坂口:ありがとうございます。皆さんの中で多様性のある社会って具体的にどんな社会だと思いますか?

長村さん:既にこの社会は多様であって、多様性が広がるとか広げるとかでは無いと思っています。根本的にもう、私たちは多様であるということからのあおいらくだなんだよね?

茂田さん:そうだね

長村さん:自分と違う人(あおいらくだやマイノリティ)を見たことないなら「いるかもしれない」と思う事が大事。絶対いないって見た事がない人たちが言うという事が、多様性を認めていないだけで、本当はその価値観をアップデートしていかなくてはならないんではないかと思います。私も、知らない世界は沢山あるので(知らないとわからない)そういう意識を持つことで多様性が認められる社会になるのかなとは思う。

茂田さん:例えば自分らしさっていう面で昔より自分らしくいてもいいのではないかという人は増えていると思う。でもその「らしさ」をいかに持つのかは人それぞれ違うし、その違いが多様性として可視化されてきてもいるのかなと。「らしく」いられることは「ハッピー」に繋がる事なのではないかな。君もあおいらくだで他の誰かは茶色いらくだでも、その中にもあおいらくだの部分を持っていて、、、でもそれぞれがそれで良いよねっていう。なぜならみんな違うから。

長村さん:そして、それが人のパワーにもなるよね

「家族をもつ」選択の自由とこれからの支援

坂口:「こどまっぷ」について教えていただきたいのですが、支援活動でここまでやっていて良かったなと思えることと、これからの課題についてお伺いさせてください。

長村さん:この活動はすごく人の命に関わっている活動で「今日妊娠した」「今月出産する」と言った事が日常になっていて、人の命に立ち会えるというところで、ものすごく「ああ、これから先も関わり続けるんだろうな」と感じています。人の選択肢として、子供を産む、育てるというのは本来皆にあるはずなんだけど、(同性カップルとしては)ないようにさせられてきたと私は感じてきたのでこの活動を始めました。人生の選択肢を増やすという意味で価値のある、必要な活動だと思う。

茂田さん:私たちのスタンスとしてはみんな子どもを持ったら良いということではなく、選択があれば良いなということなんです。子どもを持ちたいという人はチャレンジできて、持ちたくない人はそれが尊重されることを目指している。そんな中でひとつ課題として、持ちたいと思っていてもチャレンジが出来なかったり、チャレンジしたけど叶わなかったりする人がいる。そうなった時の受け皿や悲しみのケアが中々出来なかったりするので、またそこでどう社会に繋げていけるのかというのは課題としてはあります。

長村さん:課題を語り始めると、簡単に説明できないことも沢山あります。まず同性婚などの法整備がないという事もベースにあるので。私は、メディアの人によく何でそこまで大変な思いをしてまで子どもを欲しいのかという質問をされますが、これはシスヘテロ(性自認が生まれてきた体の性別と合致+性的指向が異性に向いている人)の人には聞かれない質問だと思います。(マイノリティ性を持って)「そこまでして子供をつくりたいの?」「なんでそんな大変な思いをして子供を作るのか?」みたいな質問が無くなる社会を今は目指しています。 

写真左より 茂田まみこさん,長村さと子さん,五十鈴ココさん,坂口愛彩さん

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「らくだが青くたっていいじゃない」

この言葉は、毎日の生活を送ることに精一杯な私たちにとって、とても大切な事を思い出させてくれるのではないだろうか。人との違いを受け入れ、愛おしみ、慈しむ。「あおいらくだ」は”誰もが尊重され、共生する社会をみんなでつくっていきたい”というとてもシンプルかつ温かいメッセージが込められた作品であった。あなたも誰かと違ってたっていいし、それを卑下する必要なんて全くないのだ。私たちは人と違う自分のありまのままで生きようとしているあなの味方でいたい、と切に願う。